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第2章 アイユーブ警察学校 5

5.通り雨

 ソフィアは夕飯を食べに商店街へ出かけた。
 警察学校の開講までまだしばらくあったが、そういつまでも宮殿のゲストルームに居続けるのも不自然なので、とりあえず週決めの宿に移ったのだ。宿でも朝夕の食事は出してくれるのだが、時折は夕方や宵の街にも出てみなければ、人材は見つけられない。

 と、今まで晴れていた空が、一天にわかにかき曇って雨が降り出し、雷鳴が轟いた。
 人々は慌てて屋根のある場所に走って行く。ソフィアも駆けだした、そのときだった。一頭の馬が彼女や他の人々のところへ走ってくるのがちらっと見えた。

 「あぶないっ!」

 何者かが彼女の腕を強く引き、その勢いで彼女は 斜め後方の地面に転がった。というよりも、その何者かがわざと彼女を転がして、馬の進路から外してくれたように思われた。
 黒い影はそのまま馬の背に飛び乗ると、どうどうと馬を静めて、人々がいる直前で馬を止まらせた。

 一瞬の後、人々の間から拍手が湧き起こった。ソフィアも立ち上がってその人物を見ると、二十代後半くらいの若き女性である。

 「助けてくださって、どうもありがとうございました。」ソフィアが礼を言った。
 「いえ、咄嗟のことで・・・。大変ご無礼申し上げました。どうかお許しください。どこもお怪我はなさってませんか。」
 「え?」

 ソフィアは一瞬考えた。ご無礼とはどういうことか。もしかしたらこの人は私の素性を知っているのではあるまいか。そして、あの身のこなし、ただ者ではない・・・。

 「あの・・・私、ソフィア・トートと申します。よかったら、お礼にお夕飯ご一緒してくださいませんか。」

 相手は少し考え込んだ様子だったが、お断りするのもまたご無礼だからと承知した。

---------------

 彼女は和菓子屋でアルバイトをしているということで、ソフィアはその仕事が終わるまで喫茶店で待っていた。
 時間通りに彼女はやって来た。半ば息を弾ませている。軽い食事を注文しながら、彼女は席に座った。

 「あら、走ってらっしゃったんですか?」
 「お待たせしてはと存じまして。」
 「あの・・・あなたは私にとって命の恩人です。それなのにどうしてご無礼という言葉を私にお使いになりますの?」

 彼女は「あ」という顔をして、ソフィアを見た。

 「やはり、心は出てしまうものですね。・・・実は私は忍びの者で、名を桔梗と申します。私どもは高貴な方々のご尊顔をすべて存じ上げております。姫様のことも、しばらく前から気が付き、それとなく拝見しておりましたところ、先ほどのことが起こりました。」
 「そうでしたか。やはり私のことをご存知だったのですね。改めてお礼を言います。」 
 「勿体のうございます。それに、どうかそのような丁寧語はおやめくださいますよう。・・・それから、先ほどの馬は、雷鳴に驚いて暴走したのだそうです。あとから馬車屋が商店街をめぐって謝っておりました。」
 「なるほど、あの馬はそれで・・・。何にしても、被害がなくてよかった。あなたのおかげです。ところで、あれは合気道?」
 「はい。左様でございます。」

 良い腕前をしている。もしかしたら、この人も良い警察官になるかもしれない。

 「ときに、あなたはどうして町中にいたのです?忍びの者は人前には出ぬはず。」
 「ご懸念はごもっともでございます。数年前の皇帝令で、忍びの者たちはすべての立場を解かれ、一般市民となりました。私は、先祖たる忍びたちが行ってきた殺戮の歴史の代わりに、今度は人を救っていきたいと思っています。だからお金を貯めて、薬科大学に入ろうかと。」

 「そうですか。でも、もしお金を貯めなくても人を救える職業になれるとしたら、他の職業でも構わない?」
 「え?」」
 「実は、私が今ここにいるのは、最高の警察学校の指導官や生徒を募集するためなの。でも、そうはいっても、あなたたちならすぐに察しがついてしまうかもしれないわね。私にはもうひとつ別の目的があります。私は短期間で自分の後継者を育てなければなりません。あくまでも秘密裏にね。」
 「そうだったのですか。」
 「警察官も人を救える職業よ。それに、さっきの合気道も含めて、あなたの技は薬剤師で埋もれさせて良いものではないと思うの。どうかしら?あ、これはあくまでも提案です。もしよかったら、7日の朝10時にアイユーブ警察学校の前に来てください。」
 「わかりました。考えさせていただきます。」
 「ところで、あなたの今のお名前は?」
 「はい、今井はるかと申します。」

 食事を終えて、帰り際にソフィアはふと思い出して言った。

 「そうそう、忍びだった人がもう一人いるの。正式な名前はもう一般市民だけど、たしか昔は楓とか。」

 はるかの顔色が変わった。

 「楓が・・・。楓に会えるのか・・・。」

 あれはもう十年近く前になる。
 ある日、忍びの里全域に皇帝から集合命令がかかった。

 「皆の者、これからわしの言うことをよく聞いて欲しい。・・・今日ただ今より皆の”忍び”の身分をすべて解く。先祖代々、これまでの務めはさぞ辛かったであろう。皇帝として、為政者として、今日までそなたたちの苦しみを解放することができなかったこと、心から詫びる。」

 紫政帝は数分間にわたって深く頭を下げた。人々の間にどよめきが起こった。

 桔梗も、幼なじみの楓と顔を見合わせた。ほんとうに・・・?しかし、皇帝自らがあのように深々と頭を下げている。嘘偽りではあるまい。

 そのすぐ後、いくつかあった村は解体され、人々も思い思いに散っていった。あの日から桔梗と楓はお互いに居場所がわからなくなったままなのだ。


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