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第2章 アイユーブ警察学校 4

4.スカウト

 「実は、校長をこの篤史にやってもらおうかと考えておりますのじゃ。いかがですかな、姫。」
 「え・・・。あ、はい、私はかまいませぬが。しかし、お国の大切な方を・・・。」

 ライランカでは、マテルと名を変えたカーサルが環境局長官となって環境をよく整え、皇帝の参謀と呼ばれている。篤史ことライブラもおそらくオルニアにおいて欠くことのできない存在になっているに違いない。
 紫政帝が言葉を続けた。

 「姫、アイユーブ警察学校は、殉職する警官をなくしたいという私自身の願いでもありますし、惑星全体の利益にも適います。そして、この国でそれを任せられるのは篤史しかいないのです。」

 紫政帝も、篤史も、ソフィアに力強く頷いた。思いはひとつなのだ。

 紫政帝はすでに幾人かの教官役を揃えてくれていた。
 国立科学研究所に勤務している、科学技術立国・アルリニア出身の周公沢、言語学者・小久保美穂、忍びの里から来て宮廷に仕えている春野亜矢、そして剣術の家元の家系に生まれたセルジオ・カルルと滝田光昭という顔ぶれだ。
 公沢は科学捜査の講義を、美穂は人とのコミュニケーションの講義を、その他3人は武術系であり、それにソフィアの法律学と篤史の環境設計学が加わる。

 次の日から、ソフィアと篤史は手分けして私服で街中に出て、研修生候補を探した。

 「うわーんっ。」

 街角で小さな子が泣いている。

 「もうっ、どうして泣くのよ!おかあさん、もう知らないわよ!いっつもこうなんだから!」

 母親らしい女性は、ガミガミ言うばかりで、それがもう数分も続いている。
 ソフィアが見かねて一歩踏み出そうとしたとき、それより早く行動を起こした人物がいた。その人影は、ゆっくり女の子に近づいて、目の高さを合わせるようにかがみ込んだ。

 「まあまあ、おかあさん。そんなに大きな声ばかりでは、お嬢さんが怖がるばかりですよ。だから泣くんです。・・・お嬢ちゃん、君のママはお嬢ちゃんが嫌いで怒ってるんじゃないんだ。安心して良いんだよ。」

 それから、その青年は母親にそっと言った。

 「お嬢さんをただ抱きしめてあげてください。」

 母親が抱きしめると、泣いていた女の子の声が「ひっくひっく」に変わり、やがて静かになった。小さな温もり・・・母親もいつしか泣いていた。

 「ごめんね・・・ごめんね。・・・」

 青年は静かにその場を離れて、広場の片隅に腰掛けた。周囲には絵筆や絵の具やパレット、近くのイーゼルには白い紙が置いてある。

 「あなた、絵描きさん?」ソフィアが青年に声をかけた。
 「はい、そうですが。」
 「じゃあ、よかったら私も描いていただけるかしら?」
 「もちろんですとも。」

 「失礼ですが、ライランカの方ですか?」彼は鉛筆で輪郭線を描きながら尋ねた。
 「えぇ、ここへは仕事で来ているの。実は、今日これから髪を切りに行くんです。だから記念にと思って。」
 「ライランカの方の髪の色、好きなんですが難しいんですよね。」
 「ありがとうございます。そう、この色がねぇ。」
 確かに以前からライランカ人の髪の色を普通の絵の具で再現するは難しい・・・とは聞いていた。
 「そういえば、そういうことも聞いていますね。ところで、あなたは学生さん?」
 「いえ、もう卒業しました。でも、食べていけなくて。こんなところでアルバイトですよ。」

 似顔絵が仕上がった。
 「素敵ね。こんなに美人に描いてくれて、どうもありがとう。」
 ソフィアは彼に1,000リンクを渡した。
 「こちらこそ、どうもありがとうございます。」

 「ねぇ、良かったらなんだけど・・・警察官になってみない?」
 「え、え、なんですか、藪から棒に・・・。」
 「実はね、いま警察学校の生徒を集めてるの。さっき女の子とお母さんを助けたでしょ。貴方には警官の素質があるなって思ったわけ。学校は厳しいけど、お給料も出るし、非番の日もあるから、絵も描いていけると思うのだけれど、どうかしら?私はソフィア・トート。副校長なの。」
 「それじゃ、婦警さんなんですか!こりゃぁ驚いた!それに、あれ見られてたなんて。」
 彼は顔を真っ赤にした。
 「もちろん今すぐにとは言いません。気が向いたら、7日の月曜日、午前10時にアイユーブ警察学校の前まで来てください。ところで、あなたお名前は?」
 「僕、藤原景時といいます。」
 「とても良いお名前ね。それじゃ、待っています。」

 ソフィアが去ってしばらくすると、さっきの親子がやって来た。

 「先ほどはどうもありがとうございました。私、いつの間にか自分の忙しいことをこの子に押しつけていたような気がします。抱きしめてわかりました。」
 「そうですか・・・。あ、少し待っていて下さいね。・・・さぁ、できた。」

 景時は簡単な花の絵を描いて女の子に手渡した。

 「ありがとう。」女の子は嬉しそうに受け取って、母親に見せた。もう大丈夫そうだ。
 「あ、お代を・・・。」
 「いいえ、これはお嬢さんへのプレゼントです。さっき、多めに払ってくれたお客さんがいましてね。僕としてはこれで埋め合わせになるんですよ。」
 「そうですか・・・。では、お気持ちをありがたく頂戴します。その代わりになるかどうかわかりませんが、これはうちで焼いたパンです。ぜひ召し上がってください。」
 「ありがとうございます。では、これはいただきますね。」
 彼は小さな紙包みを受け取って、中を覗いた。
 「やぁ、こりゃあ美味しそうだ。どうもありがとうございます。」
 「本当にありがとうございました。」母親は頭を下げて帰って行った。

 「バイバ~イ!」

 少し遠くから女の子が手を振った。


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